救急隊が来ても玄関の鍵が開かないとき|一人暮らしの高齢入居者の119番と、扉を壊されたときの修理費
「救急隊ですが、○号室の方から通報がありました。玄関の鍵が開きません」——単身の高齢者に部屋を貸していると、夜にこうした電話を受けることがあります。電話がつながらなければ、救急隊は扉を壊して入ることもあります。本記事では、そのとき貸す側に何が起きるのかを、統計と判決から整理します。
救急搬送の6割強は高齢者|一人暮らしの部屋は鍵が壁になる
令和6年中に救急車で運ばれた人は全国で676万9,172人で、そのうち高齢者が428万4,953人(63.3%)でした。原因の67.3%は急病で、急病で運ばれた人の64.7%も高齢者です[1]。
家族と暮らしていれば、誰かが玄関を開けて救急隊を迎えられます。一人暮らしでは、通報した本人が玄関まで歩けなければ、救急隊は着いても部屋に入れません。家族が「連絡がつかない」と119番をした場合も同じです。
鍵が開かないとき、救急隊はどう入るか
鍵が開かないとき、救急隊はまず家族や管理会社など、鍵を持っていそうな人に連絡を取ろうとします。それでも入れず、急ぐ必要があると判断すれば、窓や玄関扉を壊して入ることがあります。
消防は、消防法第29条を根拠に、消火・延焼の防止・人命の救助のために必要があるときに限り、破壊器具で玄関のドアを開けると説明しています(さいたま市の消防署の例)[2]。消防法第29条第1項は、消防吏員などが消火や人命の救助のために必要があるとき、火災が発生した消防対象物を使用し、処分できると定め、第36条第8項でこれを水災を除く他の災害に準用しています[3]。
警察が安否確認で窓を割った場合の修理費は、警察が窓ガラスを割ったときの記事で整理しています。
救急隊が扉を壊したら、修理費は誰が負うか|横浜地裁の判決
救急隊が賃貸マンションの玄関扉を壊した事案で、横浜地方裁判所は令和8年5月14日、市に扉の交換費用などの支払いを命じました[4]。
- 事案——令和4年2月、親族から「自宅療養中の居住者と数日間連絡がつかない」と119番があり、救急隊が出動。応答がなく、居住者や建物の管理会社に電話してもつながらず、通報者の承諾を得てバールで玄関扉を開けたが、居住者は不在でした[4]。
- 判断——判決は、消防法第29条第1項(第36条第8項で準用)は火災などの災害を想定した規定で、病気で人命の救助が必要になった場面は対象にならないとしました。扉を開けたことは「真にやむを得ない行為」だったとしつつ、居住者の生命の危険と関わりのない所有者が、補償もなく財産を壊されることを受け入れる立場にはないとして、扉の交換費用22万9,900円などについて市の賠償責任を認めました[4]。
- オートロックも——救急隊が外したエントランス扉のかんぬきを戻さなかったことによる不具合の修理費も、賠償の対象になりました[4]。
これは地方裁判所の1件の判断です。ほかの事案で同じ結論になるとは限りません。また、市は「所有者は入居者に修繕費を請求できる」とも主張しましたが、判決は、所有者が入居者から現に支払いを受けた証拠はないとして退けただけで、入居者に請求できるかどうかは判断していません[4]。扉を壊されたときは、経緯を消防本部に確認し、必要なら弁護士に相談してください。
夜に「鍵を開けてほしい」と電話が来たら
横浜の事案で扉が壊されたのは、救急隊が管理会社に電話してもつながらず、出動から1時間ほどたっていたことが背景にあります[4]。貸す側の電話がつながり、合鍵が届けば、扉を壊さずに済んだ可能性があります。
電話を受けたときは、次の点を確かめます。
- 相手と部屋番号——救急隊・警察・家族の誰からか、どの部屋か
- 合鍵の場所と、届けられる人——自分が行けないなら、誰がどのくらいで着けるか
- 入るときの立ち会い——救急隊と一緒に入り、記録を残す
救急隊ではなく家族から「部屋を見てほしい」と頼まれたときの手順は管理会社への安否確認の依頼の記事に、室内に入る前の判断は安否確認の立ち入りの記事にまとめています。
扉を壊されないために、貸す側が先にできること
- 夜間・休日につながる連絡先を決める——管理会社の緊急窓口や、鍵を預かる人の電話番号を、入居者と家族に渡しておく。
- 入居者の緊急連絡先に、鍵のことを伝えておく——家族が119番をするとき「管理会社が合鍵を持っている」と言えれば、救急隊の動き方が変わります。緊急連絡先の決め方は緊急連絡先の記事で扱っています。
- 自治体の緊急通報システムを使う入居者を把握する——事業者が鍵を預かる自治体があります(緊急通報システムの記事)。
- 異変に早く気づける見守りを、入居時に組み込む——救急隊や家族からの電話を待つだけでなく、貸す側にも異変の知らせが届く仕組みを持つ。
R65が提供している見守りは、部屋全体の電気の使い方の変化で暮らしの異変に気づく方式で、機器を部屋に貼る必要がありません。ただし、普段との比較で判断するため知らせまでに時間差があり、急病そのものを防ぐものではありません(見守りサービスのデメリットの記事)。仕組みは貸す側にも知らせが届く、電気データの見守りの紹介ページで確認できます。
まとめ|鍵と連絡先は、夜につながる形にしておく
- 救急搬送の63.3%は高齢者——一人暮らしでは、玄関の鍵が救急隊の前の壁になる[1]
- 鍵が開かなければ、救急隊は扉を壊して入ることがある——その前に鍵を持つ人へ連絡を試みる
- 横浜地裁は、救急隊が壊した扉の交換費用について市の賠償責任を認めた——病気の救助は消防法第29条の対象外と判断[4]
- 扉が壊された事案では、管理会社に電話がつながらなかった——夜間につながる窓口と合鍵の段取りを決めておく
- 電話を待つだけでなく、貸す側にも異変が届く見守りを持つ
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