安否確認で警察が窓ガラスを割ったら、修理費は誰が払うのか|賃貸では原則大家、割らずに済む「鍵の段取り」
「入居者と連絡が取れないと家族から通報があり、警察が窓ガラスを割って部屋に入った。入居者は無事だったが、ガラスの修理代は誰に請求すればいいのか」——単身の高齢者が入居する賃貸物件では、こうした相談が大家・管理会社に回ってくることがあります。本記事では、法律と標準的な賃貸借契約の条文から負担の原則を整理し、次に同じことが起きたときに窓を割らずに済ませる段取りまでをまとめます。個別の事情によって結論が変わることがあるため、争いになりそうな場合は弁護士などの専門家に相談してください。
警察は安否確認で窓を割って入ることがある
警察官は、人の生命や身体に危害が切迫し、被害者を救助するためやむを得ないと認めるときは、合理的に必要と判断される限度で他人の建物の中に立ち入ることができます(警察官職務執行法第6条第1項)[1]。室内で倒れている可能性が高く、合鍵がすぐに届かないような場面では、窓ガラスを割って入る判断がされることがあります。
どこを、どの程度壊して入るかを決めるのは現場の警察官です。大家・管理会社が「割らないでほしい」と言うのであれば、その場で鍵を開けられることが前提になります。この点は後半の鍵の段取りで扱います。なお、大家・管理会社が自分の判断で部屋に立ち入ってよいかは、安否確認で室内に立ち入る前の手順の記事で整理しています。
賃貸の修理費は、原則として貸主の負担
民法は、賃貸人(大家)が賃貸物の使用・収益に必要な修繕をする義務を負うと定め、例外を「賃借人の責めに帰すべき事由によってその修繕が必要となったとき」に限っています(民法第606条第1項)[2]。国土交通省の賃貸住宅標準契約書も、修繕費用は借主の責めに帰すべき事由によるものを借主が負担し、その他のものは貸主が負担するとしています(第9条第1項)[3]。
入居者が急病で倒れていた場合、警察が窓を割ったことを入居者の落ち度と見るのは難しいでしょう。退去時の原状回復でも、借主の責めに帰することができない事由による損傷は、借主の回復義務から外れます(民法第621条ただし書)[2]。標準契約書の別表第5も、借主と無関係な第三者がもたらした損耗などは借主が負担すべきものではないとしています[3]。つまり、賃貸の窓ガラスの修理は、原則として大家が手配し、費用も大家が負担することになります。
入居者が亡くなっていた場合も、窓を割ったのは入居者ではありません。原状回復の費用を相続人に請求するときに、窓の修理代を含めてよいかは慎重に考える必要があります。孤独死後の費用の請求先は原状回復費用の請求先の記事で解説しています。
警察や国に修理費を請求できるのは「違法」なときに限られる
「警察が割ったのだから、警察に払ってほしい」と考えるのは自然です。しかし、警察官職務執行法には、立入りで生じた損害を補償する条文がありません[1]。国家賠償法第1条第1項が国や都道府県に賠償を求めているのは、公務員が職務を行うについて故意又は過失によって違法に他人に損害を加えたときです[4]。
第6条の要件を満たし、必要な限度で窓を割って入った場合は、この「違法」に当たらないため、国家賠償による請求は通りにくいと考えられます。必要以上に壊されたなど違法を疑う事情があるときは、まず警察署に経緯を確認し、弁護士に相談してください。
建物の火災保険で確かめること
大家が負担する修理費は、建物にかけている火災保険で補えることがあります。日本損害保険協会は、火災保険で補償される主な損害の一つに「不測かつ突発的な事故による破損・汚損」を挙げる一方、保険の種類によって補償される範囲は異なり、保険会社によって補償内容が違うとしています[5]。
安否確認による窓ガラスの破損が支払いの対象になるかは、契約している補償の範囲と約款によって決まります。修理を手配する前に、割られた状態の写真を残し、警察の対応日時と担当部署を控えたうえで、保険会社または代理店に確認するのが確実です。入居者側の保険が使えるかどうかも、契約内容しだいです。
窓を割らずに済ませる「鍵の段取り」
窓が割られやすいのは、命に関わるおそれがあるのに、鍵を持った人がすぐに来られない場面です。夜間・休日に管理会社と連絡がつかず、家族も遠方に住んでいると、警察は待てません。次の3点を決めておくと、割らずに開けられる余地が広がります。
- 夜間・休日に鍵を出せる人と連絡先——管理会社の緊急窓口、大家本人、近くの家族のうち誰が何分で鍵を持って行けるか
- 家族からの相談の受け方——「連絡が取れない」と言われたら、最後に連絡が取れた日時と持病の有無を聞き、警察への通報と鍵の手配を同時に進める(家族側の動き方は管理会社に安否確認を頼むときの記事にまとめています)
- 異変に気づく時間を早める——昼間のうちに気づければ、管理会社が鍵を持って訪ねる余裕が生まれる
警察が取り扱った、自宅で亡くなった一人暮らしの65歳以上は令和7年に58,919人で、死亡から3日以内に見つかったのは約6割(34,823人)でした[6]。裏を返せば、約4割は4日以上たってから見つかっています。毎日の暮らしの変化に早く気づく仕組みがあれば、緊急の夜を待たずに対応できる場面が増えるかもしれません。鍵を持って訪ねられる時間のうちに、部屋の電気の使われ方から異変に気づく見守りも選択肢の一つです。知らせを受けたあと誰が部屋まで行くかの決め方は賃貸に見守りサービスを導入するときの記事で解説しています。
まとめ
- 警察は必要な限度で窓を割って入ることがある——警察官職務執行法第6条第1項
- 修理費は原則として大家の負担——民法第606条・第621条、標準契約書第9条第1項。入居者の落ち度とは言いにくい
- 警察・国への請求は違法なときに限られる——国家賠償法第1条。警職法に補償の条文はない
- 建物の火災保険を確認——「不測かつ突発的な事故による破損・汚損」の補償の有無は契約しだい
- 割らずに済ませる段取り——夜間・休日の鍵の出し手を決め、異変に早く気づく仕組みを持つ