2026.09.13

入居者が亡くなり部屋にペットが残ったら|「残置物」として処理できず、自治体も引き取らないことがある

約3,100文字読了目安 6分

単身の高齢入居者が亡くなり、部屋に犬や猫が残されていた——。家財の処理には備えがあっても、生き物にはそのまま当てはまりません。国土交通省・法務省が普及を進める「残置物の処理等に関するモデル契約条項」の活用ガイドブック(令和7年10月・第2版、全27ページ)を通読しても、「ペット」「動物」「犬」「猫」のいずれの語も出てきません[5]。大家・管理会社が動く前に確かめることを、条文と省令から整理します。

入居者が亡くなったとき、部屋のペットは誰のものになるのか

相続人のものになります。民法85条は「物」を有体物と定め、動物もこれに含まれます。896条は、相続人が相続開始の時から被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継すると定めています[3]。亡くなった瞬間から、その犬や猫の所有者は相続人であって、大家でも管理会社でもありません。

この一点が後の手続きを決めます。警察の手続きが終わるまで室内のものに手を付けられない制約は、生き物にも及びます。

「残置物」として処理できるのか

できません。国土交通省はモデル契約条項の趣旨を、単身者の死亡時に「居室内に残された動産(残置物)」の処理への不安を払拭するためと説明しています[5]。動物は法律上たしかに動産ですが、残置物関係事務の中身は廃棄・換価・指定先への送付です。生き物にそれを当てると、動物愛護管理法44条3項の遺棄(1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金)に触れるおそれがあります[1]

同法44条4項は、犬・猫のほか「人が占有している動物で哺乳類、鳥類又は爬虫類に属するもの」を愛護動物と定めています[1]。鳥や亀も対象です。死後事務委任契約で家財の処理を託していた場合も、受任者が動物まで引き受けるかは別の問題で、契約書に明記がなければ空白になります。

相続人が放棄したら、世話は誰の義務になるのか

民法940条1項は、相続を放棄した者に対し、放棄の時に相続財産を「現に占有している」場合に限って、引き渡すまで自己の財産と同一の注意をもって保存する義務を課しています[3]

遠方に住み、一度も部屋に来ないまま放棄した相続人には、この義務が生じません。相続財産清算人の選任には最短でも数か月かかるため、その間は法律上の管理者が誰もいません。現に部屋の前にいるのは大家だけという構図が生まれます。

自治体は引き取ってくれるのか

前提が違います。動物愛護管理法35条1項は、都道府県等は犬または猫の引取りを「その所有者から」求められたときは引き取らなければならないと定めています[1]。所有者は相続人であって、大家ではありません。環境省の集計では、令和6年度に自治体が引き取った犬猫3万9,409匹のうち「飼い主から」は1万537匹で、残りは所有者が判明していないものでした[4]

大家が持ち込む場合に効いてくるのは同条3項です。所有者の判明しない犬猫を「その拾得者その他の者から」求められた場合に1項・2項を準用しますが、このとき拒否の要件は「周辺の生活環境が損なわれる事態が生ずるおそれがないと認められる場合その他の」に読み替えられます[1]。室内で静かに過ごしている一匹は周辺の生活環境を損なう状態にあたりにくく、読み替え後の条文はむしろ断る側に働きます

引取りを拒否できる場合は、省令に書かれている

施行規則21条の2は、所有者から引取りを求められても拒否できる場合として6項目を挙げています。販売業者からの求め、繰り返しの求め、繁殖制限の指示に従わない子犬・子猫、老齢または疾病を理由とする求め、飼養が困難とは認められない理由、あらかじめ譲渡先を探す取組をしていない場合——そして7号で都道府県等の条例・規則に委ねています。所有者不明の犬猫は21条の3が読み替え後の2項目を定めています[2]

運用も同じです。横浜市は、引取りは飼い続ける努力と新しい飼い主を探す努力を尽くした後の最後の手段だとし、事前相談のうえ有料で引き取る場合もあるが上記に当たるときは断ることがあるとしています。犬または猫以外の動物の引取りは行っていません(同市ページ・2022年6月15日最終更新時点)[6]

引取りの可否・窓口は自治体ごとに異なります。本記事は2026年9月13日時点の各ページと条文の記載に基づく整理です。個別の判断は自治体の窓口と弁護士に確認してください。

餌をやり始めると、途中でやめられなくなる

目の前の一匹を放っておけず、大家が水と餌を置く。これは民法697条の事務管理にあたります。そして700条は、本人またはその相続人・法定代理人が管理できるようになるまで事務管理を継続しなければならないと定めています[3]。数日で終わる想定が、清算人の選任を待つ数か月に伸びます。

一方で702条1項により、本人のために支出した有益な費用は償還を請求できます[3]。餌代や動物病院の費用は、記録を残しておけば請求の対象になり得ます。動物愛護管理法2条2項は「何人も」動物を取り扱う場合には適切な給餌・給水と健康の管理を行わなければならないとし、44条2項は自己が保管する愛護動物の疾病・負傷に適切な保護を行わないことを罰則の対象にしています[1]関わり始めた時点で片手間では済まなくなります。

この重さは発見が遅れるほど増します。人の安否確認が遅れた部屋では、動物も同じ日数だけ放置されています。入居者に操作を求めず、生活の変化から異変を早く拾う見守りは、この「誰の義務でもない数日」を短くする備えでもあります。

入院で戻ってこないときは、死亡よりも動かしにくい

所有者が生きているためです。35条1項の引取りを求められるのは所有者本人で、入院中の入居者に代わって大家が求めることはできません[1]解約できる人がいないまま部屋が止まるのと同じ構図が、飼育にも起きます。成年後見人が就いているか、家族が引き受けられるかで分かれます。

本人が退院して暮らし直せる見込みがあるなら、ペットと一緒に移れる部屋の探し方を先に当たるほうが現実的です。室内への立ち入りは、その前に踏む手順を確かめてください。

まとめ:入居時に決めておけるのは「引き受け先」

  1. 所有者は相続人——大家の判断で処分できるものではない
  2. 残置物の枠組みの外——モデル契約条項もガイドブックも動物に触れていない
  3. 行政は最後の手段——省令に拒否事由があり、犬猫以外は対象外の自治体もある
  4. 入居時に聞けるのは1行——このペットを引き受ける人は誰か、連絡先はどこか

緊急連絡先を入居時に取り決めるときに、飼っている動物の有無と引き受け先まで書いておく。それが、残された一匹に大家が事前にできる最も確実な手当てです。

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