2026.08.20

入居者の孤独死を発見したら|警察の手続きが終わるまで大家がしてはいけないこと

約3,200文字読了目安 6分

玄関を開けた瞬間から、大家・管理会社は「何をすべきか」より先に「何をしてはいけないか」を知っている必要があります。良かれと思って手を動かしたことが、警察の手続きを妨げ、後の保険請求や告知の判断まで狂わせるためです。この記事は発見から部屋に手をつけられるまでの区間だけを扱います。

扱われた死体20万4,562体のうち、犯罪死体は361体

警察庁刑事局捜査第一課「死体取扱数等の推移(平成28年〜令和7年)」(令和8年2月)によると、令和7年に警察が取り扱った死体は20万4,562体(交通関係を除く)で、前年より378体・0.02%増でした。

内訳は犯罪死体361体変死体1万8,801体その他の死体18万5,400体。犯罪死体は0.2%に満たず、9割以上は「その他の死体」です。一方で検視官の臨場率は82.7%(16万9,073体)、解剖率は9.9%(司法解剖9,859体・調査法解剖3,886体・その他6,530体)でした。

うち自宅で亡くなった一人暮らしの方が7万6,941体・37.6%。大半は事件性のない死ですが、それでも警察の手続きは必ず入り、1割は解剖に回ります。「事件ではないのだから、すぐ部屋を片付けられる」という前提が成り立たないのはこのためです。

「連絡が取れないが、合鍵で入っていいのか」で迷っている段階なら、安否確認で室内に立ち入る前の手順と法的根拠を先にご覧ください。本記事はその先の話です。

発見直後にしてはいけない3つのこと

①室内の物を動かす・処分する。 室内の状況そのものが後述のとおり警察の調査対象です。加えて故人の家財は相続の対象で、相続人が確定する前に貸主の判断で処分すれば責任を問われる余地が残ります。

②清掃業者を先に手配する。 現場の保全が終わる前に清掃は入れられません。費用の負担者(相続人・連帯保証人・保険)が決まる前の発注は、負担の話をこじらせます。

③保険会社への連絡より先に原状回復を始める。 孤独死に対応した保険は多くの場合、現場の状況や見積りの提出を前提とします。片付けた後では立証しづらくなるため、加入内容は発見当日のうちに確認しておきます。

やることは、まず119番または110番と警察の指示を受けること。次に連帯保証人・緊急連絡先・親族への連絡。片付け・清掃・鍵交換・解約は、すべてその後です。

「検視」と「死体調査」は別の手続き

警察が入る根拠は、死体の性質によって二本立てです。

ひとつは検視。刑事訴訟法第229条第1項は「変死者又は変死の疑のある死体があるときは、その所在地を管轄する地方検察庁又は区検察庁の検察官は、検視をしなければならない」と定めます(第2項で検察事務官・司法警察員に行わせることも可)。

もうひとつが死体調査。「警察等が取り扱う死体の死因又は身元の調査等に関する法律」(死因身元調査法)第4条第2項は、犯罪死体・変死体を除く死体について、警察署長が死因と身元を明らかにするため「外表の調査、死体の発見された場所の調査、関係者に対する質問等の必要な調査をしなければならない」と定めています。

ここが実務上いちばん重要な一文です。「死体の発見された場所の調査」=その居室そのものが調査の対象だと法律に明記されています。片付けてしまえば調査の材料が失われます。「関係者に対する質問」の相手には発見者である大家・管理担当者も含まれ得るため、いつ・どういう経緯で立ち入ったかの記録を残してください。

同法第5条第3項は、変死体については第229条の検視の後でなければ体内の検査ができないとし、第6条は解剖の実施と、あらかじめ遺族に説明することを定めます。解剖に回れば、部屋の扱いが決まるまでの時間はさらに延びます。

つまり部屋に手をつけてよいのは「警察の手続きが終わり、警察の了解を得た後」です。何日かかるかは事案によるため、日程を見込んだ業者の予約は避けてください。

大家が死亡届の届出義務者になることがある

意外に知られていないのが、戸籍法の定めです。第86条第1項は、死亡の届出を「死亡の事実を知つた日から七日以内」に行うものとし、届書に医師の診断書または検案書を添付すると定めています。

そして第87条第1項は、届出義務者を第一「同居の親族」、第二「その他の同居者」、第三「家主、地主又は家屋若しくは土地の管理人」の順に並べ、ただし書きで「順序にかかわらず届出をすることができる」としています(第2項では後見人・任意後見人等も届出可)。

一人暮らしの入居者が亡くなり、同居の親族も同居者もいない場合、条文上の第三順位として家主または家屋の管理人が名指しされているということです。親族がすぐに見つからないケースでは、この規定が現実に効いてきます。届出先は死亡地の市区町村でも差し支えありません(第88条第1項)。

診断書・検案書は届出に必須の添付書類です。警察の手続きの中で医師が死体検案書を作成しますので、誰が受け取り誰が届出をするのかを、早い段階で親族・連帯保証人とすり合わせておくと滞りません。

引き取る人がいないときは市町村長が火葬する

親族と連絡がつかない、引き取りを断られることもあります。受け皿は「墓地、埋葬等に関する法律」(墓埋法)です。

第9条第1項は「死体の埋葬又は火葬を行う者がないとき又は判明しないときは、死亡地の市町村長が、これを行わなければならない」と定め、第2項でその費用に行旅病人及び行旅死亡人取扱法の規定を準用するとしています。埋葬・火葬には市町村長の許可が必要で(第5条第1項)、死亡後24時間を経過した後でなければ火葬はできません(第3条)。

ただし市町村長が火葬を行っても、賃貸借契約や室内の家財の問題は別に残ります。相続人が不明なら相続財産清算人、家財を契約段階で決める方法は残置物処理のモデル契約条項、清掃と費用負担は特殊清掃、告知の線引きは国交省ガイドラインの各記事をご覧ください。

まとめ:初動の一手が、後の費用と告知を左右する

順序はこうなります。①人命の可能性があれば119番、そうでなければ110番②室内に手をつけずに警察の指示を待つ③連帯保証人・緊急連絡先・親族へ連絡④保険の加入内容を確認⑤警察の了解を得てから清掃・原状回復・解約へ。届出義務者が見当たらないときは、戸籍法第87条第1項第三で家主・家屋管理人が挙げられていることを思い出してください。

個別の事案でどこまでが許されるかは、警察・弁護士への確認を前提にしてください。そのうえで申し上げたいのは、ここまでの手順のどれもが「発見が早いほど軽くなる」ということです。孤独死保険は起きた後の費用を和らげる備えですが、スマートメーターによる見守りのように異変に早く気づく仕組みは、この記事に書いた手続きそのものを短くします。ご自身の物件の状況は、60秒のリスク診断でも確認できます。

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