残置物処理のモデル契約条項とは?単身高齢者の死後事務委任契約を大家向けに解説
高齢の単身入居者を受け入れる際、多くの大家が気にするのが「万一亡くなったとき、部屋の家財(残置物)や契約はどうなるのか」という点です。相続人が分からない、あるいは連絡がつかないと、契約の解除も片付けも進められず、次の募集ができないまま費用だけがかさむ——こうした不安を減らすために国が用意したのが「残置物の処理等に関するモデル契約条項」です。本記事では、国土交通省・法務省の公表資料をもとに、その中身と使い方を賃貸オーナー目線で整理します。
なぜ残置物の処理が大家の不安になるのか
賃借人が亡くなると、賃借権と居室内に残された家財(残置物)の所有権は、そのまま相続人に引き継がれます。つまり大家が勝手に契約を解除したり、荷物を処分したりすることはできません。相続人の有無や所在が分からない場合には、賃貸借契約の解除も残置物の処理も難しくなり、部屋を空けられない状態が続くことがあります。
法務省の資料でも、こうした事情から「特に単身高齢者に対して賃貸人が建物を貸すことを躊躇する問題が生じている」と指摘されています。原状回復や残置物処理にかかる費用の実額感は孤独死保険の解説記事で触れていますが、費用と同じくらい大家を悩ませるのが、この「手続きが進まない」という時間的なリスクです。
「残置物の処理等に関するモデル契約条項」とは
残置物の処理等に関するモデル契約条項は、国土交通省と法務省が令和3年(2021年)6月に策定した、賃借人の死後の事務をあらかじめ委任しておくための契約のひな形です。想定される利用場面は、単身高齢者(おおむね60歳以上)が入居する際の賃貸借契約締結時とされています。
入居者が元気なうちに、「自分が亡くなった後の契約解除と残置物の片付けを、あらかじめ決めた人(受任者)に任せておく」という取り決めを結んでおくのが基本の考え方です。使用が義務づけられているものではありませんが、条文ごとに詳しい解説が付き、そのまま使える契約書式も公開されているため、実務で活用しやすいのが特徴です。
国交省のサイトでは、モデル契約条項本体に加えて「活用ガイドブック」(令和7年10月・第2版)やQ&Aも公開されており、契約締結から残置物への対応までをステップごとに確認できます。
2つの委任契約:解除関係と残置物関係
モデル契約条項は、性質の異なる2つの委任契約を組み合わせる構成になっています。
①解除関係事務委任契約は、賃借人が亡くなった後に賃貸借契約を解除する代理権を、受任者に授与しておくものです。これにより、相続人を探し出さなくても契約関係を終わらせる道筋が用意されます。②残置物関係事務委任契約は、契約終了後に残置物を搬出・廃棄したり、指定した送り先へ送ったりする事務を委ねる契約(準委任)です。
残置物の処理には慎重な手順が定められており、受任者は「賃借人の死亡から一定期間が経過し、かつ賃貸借契約が終了した後」でなければ処分できません。さらに、入居者が生前に「廃棄しないでほしい」と指定した物は残し、換価(売却して現金化)できるものは換価に努めることが求められます。大切な形見や財産が一律に捨てられない仕組みになっている点は、入居者・相続人の双方にとって安心材料です。
受任者は誰に頼めばよいか
この契約のカギを握るのが、事務を託される「受任者」を誰にするかです。国の考え方では、まず賃借人の推定相続人(子など)が受任者となるのが望ましいとされています。ただし、身寄りがない、あるいは相続人に頼むのが難しいケースも少なくありません。
その場合は、社会福祉法人や居住支援法人、賃貸管理業者といった第三者を受任者とすることが望ましいとされています。ここで注意したいのは、大家(賃貸人)自身が受任者になるのは基本的に避けるべきという点です。契約を解除する側と解除される側が同一になると利益相反が生じ、手続きの公正さが疑われかねないためです。
受任者には残置物の保管・処分に伴う責任や実費が発生します。誰に、どこまでの範囲を、どのような報酬・費用負担で委ねるのかを契約書で明確にしておくことが、後のトラブル防止につながります。
契約の流れと改正セーフティネット法との関係
実務では、入居申込みから賃貸借契約を結ぶ段階で、入居者・受任者・大家の関係者が内容を確認し、モデル契約条項に沿った委任契約と、賃貸借契約側の特約条項をあわせて締結します。2つの委任契約は同一の受任者と1通で結ぶこともできますし、解除関係と残置物関係で別々の受任者に分けることもできます。
この仕組みは、近年の制度改正とも連動しています。令和7年(2025年)10月1日に施行された改正住宅セーフティネット法では、居住支援法人の業務に「入居者からの委託に基づく残置物処理」が追加され、その実施にあたってはモデル契約条項を活用することが基本とされました。同時期に始まった居住サポート住宅の認定制度とあわせ、大家が単身高齢者を受け入れやすくする環境が整いつつあります。
まとめ:契約と見守りをセットで備える
残置物の処理等に関するモデル契約条項は、「亡くなった後に手続きが止まってしまう」という単身高齢者特有のリスクを、入居前の取り決めで和らげるための実務ツールです。解除と残置物処理をあらかじめ受任者に委ねておくことで、大家は次の一歩を踏み出しやすくなります。
ただし、この契約はあくまで「万一のあと」に備えるものです。異変にできるだけ早く気づき、発見の遅れを防ぐ日々の見守りと組み合わせてこそ効果が高まります。原状回復費用は最大100万円、空室・家賃損失は最大200万円まで補償する保険と、毎日の安否確認をセットで整えておけば、経済面と手続き面の両方に備えられます。自分の物件で今どこまで備えられているかは、60秒のリスク診断でも確認できます。