高齢者の見守りはネット環境なしでもできるか|Wi-Fiのない賃貸の部屋で使える方式と、貸す側が確かめること
「母の部屋にはインターネットもWi-Fiもないのですが、見守りは付けられますか」——単身の高齢入居者の家族から、こうした相談を受けることがあります。見守りの機器というとスマートフォンのアプリやWi-Fiを思い浮かべがちですが、方式によって使う通信はまったく違います。ネット回線の無い部屋でも使える見守りは複数あり、貸す側が気にかけるべきなのは「回線を引くかどうか」よりも、その方式が部屋に何を求め、知らせが誰に届くかです。
高齢者の見守りはネット環境なしでもできる|方式ごとに使う通信が違う
見守りの方式が異変を伝えるときに使う通信は、大きく分けて次の4つです。
- 自宅の固定電話回線——自治体の緊急通報システムの従来型など
- 機器に内蔵された携帯電話の回線——緊急通報システムの無線型や、通信機能付きの電球など
- 電力会社(送配電事業者)の通信網——電力のスマートメーターのデータを使う見守り
- 自宅のインターネット回線(Wi-Fi)——家庭用の見守りカメラや一部のセンサー
このうちネット環境を前提にするのは4つ目だけです。つまり「ネット環境なし」で探すときは、1〜3のどれを使う方式かで絞り込めば足ります。
80歳以上の約2割は携帯電話も持っていない
ネット回線の無い高齢者の部屋は珍しくありません。総務省の通信利用動向調査(令和7年8月末時点、令和8年5月29日公表)では、インターネットを利用している人の割合は80歳以上で男性45.3%・女性32.3%でした[1]。携帯電話・スマートフォンのいずれも持っていない人は80歳以上で21.0%(70〜79歳は5.5%)にのぼります[1]。一方、固定電話を持つ世帯は全体で53.6%まで減っています[1]。
入居者本人がスマートフォンを使わない前提で考えると、本人に操作を求めない方式か、ボタンを押すだけで済む方式が候補になります。
ネット環境なしで使える見守りの方式と、使う通信
- 自治体の緊急通報システム——固定電話回線、または本体内蔵の携帯回線を使う。部屋には本体を置く(固定電話型は電話回線が要る)
- 見守り電球——電球に内蔵された通信を使う。口金の合う照明と電波が要る
- 電気の使われ方の見守り——電力会社の通信網を使う。設置済みのスマートメーターを使い、部屋に機器は置かない
緊急通報システムは、東京都中央区のように自宅の固定電話回線を使う型式と、機器本体に内蔵されたLTE回線を使う「無線型式」から選べる自治体があります[2]。所沢市も、固定電話回線の有無で本体を分けています[3]。ただし千葉市は緊急通報装置の利用に電話回線が必要としており、回線の無い方に貸し出す高齢者福祉電話は令和8年10月30日で新規受付を終了します[4]。対象条件も自治体ごとに違うため、詳しくは緊急通報システムの記事を参照してください。
見守り電球は、通信機能の工事やコンセントが要らず、電球を差し替えて使います。ただし設置場所の通信状況によっては使えない場合があるとされています[5](賃貸での注意点は見守り電球の記事で整理しています)。
電気の使われ方の見守りは、電力スマートメーターが計った電気の使用量のデータを使います。スマートメーターが計った使用量を送配電事業者へ送る経路は「Aルート」と呼ばれ、通信方式は無線マルチホップ方式・1:N無線方式・PLC方式の3つです[6]。入居者の部屋のインターネット回線を使う仕組みではないため、Wi-Fiが無くても、本人が機器を操作しなくても成り立ちます。ネット回線の無い部屋で、工事も室内カメラも使わずに見守りたい場合は、電気の使われ方から異変に気づく見守りも比べてみてください。仕組みはスマートメーター見守りの記事で解説しています。
回線を新たに引く前に、賃貸で確かめること
「見守りのためにネット回線を引きたい」「固定電話を付けたい」という相談を受けたら、まず上の方式で足りないかを一緒に確かめるのが先です。回線の新設には、次のような論点が付いてきます。
- 工事を伴うか——壁や共用部に配線を通す工事は、部屋や建物に手を加えることになり、貸主の承諾の要否を契約書の禁止・制限事項で確かめる必要があります。機器を壁に固定する場合の考え方は見守りカメラの記事を参照してください
- 回線の名義と解約——入居者名義で引いた回線は、入院や死亡で部屋を明け渡すときに解約の手続きが残ります。家族が手続きできるかを入居時に確認しておくと、明け渡しで迷いません
- 本人が使い続けられるか——ルーターの電源が抜けただけで止まる方式は、機器に慣れない入居者の部屋では途切れやすくなります
通信の有無より先に決めること|知らせは誰に届くのか
ネット環境の有無は方式を選ぶ条件の1つにすぎません。貸す側にとってより重いのは異変の知らせが誰に届くかです。緊急通報システムの知らせは受信センターから協力員などへ連絡が入る仕組みで、千葉市では協力員が駆けつける必要はないとされています[4]。見守り電球は登録した家族などへメールで届きます[5]。どちらも大家・管理会社に自動で届く仕組みではありません。
家族から「連絡が取れない」と知らされたとき、誰が部屋へ行き、鍵をどう扱うかは方式とは別に決めておく必要があります。見守りを入れる順序は賃貸に見守りサービスを導入するときの記事、家族から頼まれたときの動き方は管理会社に安否確認を頼むときの記事でまとめています。
まとめ
- ネット環境なしでも見守りはできる——Wi-Fiを前提にするのは家庭用カメラなど一部の方式だけ
- 80歳以上の約2割は携帯電話も持っていない——本人に操作を求めない方式が候補
- 使う通信で絞る——固定電話回線、機器内蔵の携帯回線、電力会社の通信網
- 回線を引く前に——工事の承諾、名義と解約、途切れやすさを確かめる
- 知らせの届く先を決める——多くの方式は大家・管理会社に自動では届かない