賃貸に緊急通報装置を付けるとき|サ高住の基準に見る「誰が受けて、誰が駆けつけるか」と、押せない場面への備え
単身の高齢入居者が増えてきたので、部屋に緊急通報装置(緊急ボタン)を付けておきたい——そう考える大家・管理会社は少なくありません。ただ、ボタンを付けただけでは、押されたあとに誰が受けて、誰が部屋まで行くのかが決まりません。本記事では、高齢者向けの集合住宅で装置がどう基準に組み込まれているかを省令と公的資料で確かめ、普通の賃貸に付けるときに貸す側が決めることを整理します。特定の機器や事業者の比較はしません。
高齢者向けの集合住宅では、緊急通報装置は「基準」に入っている
サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)の登録基準を定める省令は、状況把握(安否確認)と生活相談のサービスについて、資格者などが原則として夜間を除き敷地内か近くの建物に常駐すること、状況把握を毎日1回以上行うことを求めています。そのうえで、常駐していない時間は各居住部分に、入居者の心身の状況に関し必要に応じて通報する装置を設置して状況把握サービスを提供する、と定めています[1]。
公営住宅でも同じ考え方の制度があります。国のシルバーハウジング・プロジェクトは、緊急通報装置を備えた公営住宅等と、生活援助員(LSA)による生活相談・緊急時対応を組み合わせたもので、平成21年度末の管理戸数は869団地・23,298戸です[2]。東京都中央区の区立高齢者住宅(シルバーピア)も、高齢者に配慮した設備に加えて、緊急時の対応を行う生活協力員を配置しています[3]。サ高住そのものの仕組みはサ高住と一般の賃貸の違いの記事で整理しています。
基準が決めているのは、装置より「誰が受けるか」
上の制度に共通するのは、装置が単独で置かれていないことです。サ高住では常駐する人がいて、その人がいない時間を装置で補う形になっています[1]。シルバーハウジングやシルバーピアでは、生活援助員・生活協力員が緊急時の対応を担います[2][3]。
自治体が個人宅に貸し出す緊急通報システムも、受ける側の流れが決まっています。新宿区の案内では、ボタンが押されたときなどに警備会社から確認の電話が入り、つながらないときは緊急事態と判断して警備会社・救急車などが出動します。緊急時に備えて、警備会社が事前に自宅の鍵を預かるとも書かれています[4]。
普通の賃貸には、こうした常駐者も受け手もいません。ボタンだけを付けると、押された知らせがどこにも届かない、あるいは夜中に大家の携帯電話だけが鳴る、ということになりかねません。見守りを導入するとき最初に決めることと同じで、機器より先に受け手と駆けつけを決める必要があります。
普通の賃貸に付けるとき、貸す側が決めること
- 通報を受ける先と時間帯——受信センター・家族・管理会社のどこに届くか。夜間・休日も受けられるか
- 駆けつけと鍵——知らせを受けた人が部屋に入れるか。鍵を誰が預かるかを、入居者の同意を得て決めておく
- 設備として付けるか、入居者が付けるか——民法第606条により、賃貸人は賃貸物の使用・収益に必要な修繕をする義務を負います[5]。契約書の設備欄に載せて貸す側が付けるなら、故障時の修理や交換の段取りまで決めておきます
- 退去時の扱い——入居者が自分で付けたものは、民法第622条で準用する第599条により、借主が退去時に取り外す義務を負うのが原則です(分離できない物などは例外)[5]。貸す側の設備なら、次の入居者に引き継ぐのか外すのかを決めます
- 電源・回線と工事——電話回線や電源の要否、壁への取り付けの有無を、設置前に確かめます
自治体の緊急通報システムとの関係
建物や部屋に装置を付けるときは、入居者が自治体の制度を使えるかにも影響しうる点に注意が要ります。新宿区の緊急通報システムは、対象者の要件の一つにシルバーピア(緊急通報装置が設置されている高齢者集合住宅)等に入居していない方を挙げています[4]。装置付きの住宅に住む人は、自治体の制度の対象から外れる場合があるということです。
貸す側が付けた装置がこの「等」に当たるかは、自治体ごとの判断になります。入居者が自治体の制度をすでに使っている、または使う予定があるなら、付ける前に入居者と一緒に地域包括支援センターや区市町村の窓口へ確かめておくと、二重になったり使えなくなったりするのを避けられます。自治体の制度の要件の違いは高齢者の緊急通報システムは誰が使えるのかの記事で整理しています。
ボタンは「押せるとき」にしか働かない
押しボタン式の装置は、入居者が自分で押せる状態であることが前提です。急に倒れて意識を失ったときや、浴室で動けなくなったときは押せません。新宿区の緊急通報システムも、ボタンに加えて、開閉センサーが一定時間利用者の動き等を感知しなかった場合にも確認の電話が入る仕組みを用意しています[4]。センサー式を賃貸で使うときの注意は開閉センサーの見守りの記事で整理しています。
警察庁によると、令和7年に自宅で亡くなった一人暮らしの65歳以上は58,919人で、このうち死亡から発見までが4日以上だったのは24,096人でした[6]。押せなかった場面を誰が拾うかを、ボタンとは別に考えておく必要があります。
当社の見守りは、部屋全体の電気の使い方の変化で異変に気づく方式で、入居者がボタンを押したり機器を操作したりする必要がありません。普段との比較で判断するため知らせまでに時間差があり、急病そのものを防ぐものではありませんが、押せなかった場面を補う位置づけです。仕組みは貸す側に異変の知らせが届く、電気データの見守りの紹介ページで確認できます。
まとめ
- 高齢者向けの集合住宅では、装置は「受ける人」とセットで基準になっている——サ高住は常駐者の不在時間を装置で補い、シルバーハウジングは生活援助員と組み合わせる[1][2][3]
- 普通の賃貸では、受け先・時間帯・駆けつけ・鍵を先に決める——自治体の制度も、確認の電話と鍵の預かりまで決めている[4]
- 設備として付けるか、入居者が付けるかで、修理と退去時の扱いが変わる[5]
- 装置付きの住宅を、自治体の緊急通報システムの対象外にする自治体がある——付ける前に窓口で確かめる[4]
- ボタンは押せないときに働かない——センサーや電気の使い方など、操作の要らない方法と組み合わせて考える[4][6]
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