2026.10.17

孤独死で管理会社は責任を問われるのか|発見の遅れ・立入り・費用を管理受託契約から読む

約2,900文字読了目安 6分

管理物件で入居者が亡くなり、発見までに日数がかかった——そのとき担当者がまず気になるのは「管理会社として責任を問われるのか」ではないでしょうか。本記事では、国土交通省の標準管理受託契約書と賃貸住宅管理業法の資料をもとに、管理会社が責任を問われうる場面を条文の範囲で整理します。個別の結論は契約内容と事実関係で変わるため、実際の判断は弁護士などの専門家にご確認ください。

責任の範囲は管理受託契約で決まる|安否確認は法の管理業務ではない

管理会社とオーナーの関係は管理受託契約(準委任)で、管理会社の義務はまず契約で引き受けた業務の範囲で決まります。

賃貸住宅管理業法は「管理業務」を、①居室や共用部分の点検・清掃などの維持と必要な修繕を行う業務(維持保全)、②家賃・敷金・共益費などの金銭の管理を行う業務、と定めています[1]。国土交通省の制度概要ハンドブックは、入居者からの苦情対応だけを行い維持・修繕を行っていない場合は、維持保全を行う業務に当たらないとも説明しています[1]。入居者の安否確認や見守りは、法が定める管理業務には含まれていません。

国土交通省の「賃貸住宅標準管理受託契約書」(令和3年4月公表)も、頭書に書き込んだ内容と方法で管理業務を行う(第9条)作りです[2]。安否確認を契約に書いていなければ、それを怠ったことを理由に責任を問うのは難しいのが、契約の構造から言えることです。管理会社として孤独死対策をどこまで「義務」と見るかは管理会社ができる孤独死対策の記事でも整理しています。

問われうるのは「受けた知らせ」への対応|善管注意義務

ただし、「契約にないから何もしなくてよい」とまでは言えません。民法は、委任を受けた人に「善良な管理者の注意」をもって事務を処理する義務を負わせています(第644条・準委任にも準用)[3]。標準契約書も第18条で同じ義務を定め、管理会社やその従業員が管理業務の実施に関してオーナーや第三者に損害を与えたときは賠償の責任を負い、管理会社の責めに帰することができない事由による損害は負わない、としています[2]。

孤独死そのものは管理会社が引き起こしたものではなく、論点になりうるのは管理業務の中で受けた知らせを、どう扱ったかです。たとえば次のような場面です。

こうした知らせに対し、オーナーへの報告や連絡先への確認をしていたかが問われることはありえます。賃貸住宅管理業法は、管理業者に対し、管理業務の実施状況と入居者からの苦情の発生状況・対応状況を定期的にオーナーへ報告することを求めています(法第20条)[1]。

部屋に入る判断は誰がするのか|立入りと緊急時の業務

「なぜ部屋に入らなかったのか」と問われる場面もあります。標準契約書の第17条は、管理業務に必要なときは住戸に立ち入れるが、事前に入居者の承諾を得る、ただし防災等の緊急時はこの限りでない、と定めています。コメントでは、緊急の例として火災による延焼を防ぐ場合を挙げています[2]。

第12条では鍵の管理は原則オーナーが行い、管理会社が保管する場合は特約に書くとされています[2]。第11条は、緊急でオーナーの承認を受ける余裕がない業務は、承認なしで実施し、あとで書面で通知できるとしています[2]。

安否確認のための立入りを管理会社が単独で判断できるかは、条文だけでははっきりしません。誰が鍵を持ち、誰の判断で、誰に連絡してから入るのかを、オーナーと事前に決めておかないと、いざというときに動けません。立ち入る前の手順と警察への相談は安否確認で室内に立ち入る前の手順の記事にまとめています。

発見が遅れたときの費用は誰に向かうのか

発見が遅れると、費用は大きくなります。日本少額短期保険協会の「第10回 孤独死現状レポート」(2015年4月〜2025年3月の孤独死保険の支払データ)では、原状回復費用の平均損害額は494,344円、遺品整理(残置物処理)費用の平均損害額は294,131円でした[4]。

これらの費用は入居者側(相続人や保証人など)・オーナー・保険の間で整理されるのが通常で、管理会社が当然に負うものではありません。大家が入居者側に何を請求できるかは孤独死の損害賠償の記事で扱っています。管理会社にとってのリスクは、「もっと早く気づけたはず」という不満がオーナーとの信頼関係に向かうことです。

同じレポートでは、第一発見者のうち不動産管理会社・仲介会社・大家等が23.6%を占めていました。そのうえで、管理会社等が第一発見者だったケースのうち3日以内に発見されたのは22.0%でした[4]。管理する側は第一発見者になりやすい一方、家賃や点検だけでは早く気づくのが難しいことが分かります。

責任の線は事前に契約と仕組みで引いておく

事前にできることは次の3つです。

  1. 特約で業務の範囲を書く——標準契約書の第26条には特約の欄があり、コメントは通常の管理業務以外の業務を依頼・承諾するときは、業務内容と対価、支払方法を明記することが望ましいとしています[2]。見守りを引き受けるなら範囲(連絡が取れないときの確認方法・立入りの判断者・鍵の保管)を書き、引き受けないならその旨を確認しておきます。
  2. 苦情と対応を記録し、定期報告に載せる——日付と対応を残し、法第20条の定期報告で伝えます[1]。
  3. 人の目に頼らない知らせの仕組みを入れる——入居時に、入居者の同意を得て、異変が貸す側に届く見守りを組み込んでおくと、「気づけたはず」の範囲を小さくできます。

R65の見守りは、電気の使い方の変化で異変に気づく方式で、部屋に機器を置かず、入居者の操作も要りません。知らせまでに時間差があり、亡くなること自体を防ぐものではありません(見守りサービスのデメリットの記事)。仕組みは管理会社向けの電気データの見守りの紹介ページで確認できます。貸す側から見える異変のサインは孤独死の前兆の記事で扱っています。

まとめ|「引き受けたこと」と「受けた知らせ」が責任の範囲

  1. 安否確認は法の管理業務に入っていない——管理業務は維持保全と金銭管理[1]
  2. 責任の範囲は管理受託契約で決まる——標準契約書は頭書に書いた業務を行う作り(第9条)[2]
  3. 問われうるのは受けた知らせへの対応——善管注意義務(民法第644条・標準契約書第18条)[2][3]
  4. 管理会社等が第一発見者のとき、3日以内の発見は22.0%——人の目だけでは日数が空く[4]

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