見守りサービスへの加入を入居条件にできるのか|高齢入居者との賃貸借で特約に書くときの線引き
「高齢の方の申込みは、見守りサービスに入ってもらうことを条件に受けたい」——そう考える貸主・管理会社は少なくありません。アットホームの調査(2026年6月公表)では、見守りサービスを知っている管理会社は90.1%ですが、導入している物件があるのは19.5%にとどまります[1]。条件にしてよいのか、どう書けば後で揉めないのかを、条文と標準契約書から整理します。
見守りサービスへの加入を、入居の条件にできるのか
これから結ぶ契約であれば、加入を条件にすること自体は妨げられません。民法第521条は、法令に特別の定めがある場合を除き契約をするかどうかを自由に決められること、法令の制限内で内容を自由に決められることを定めています[2]。
同じ調査の自由回答にも、更新時などに住宅保険への加入を必須にしている、見守りサービスの追加を案内している、という管理会社の声が並びます[1]。見守りを付けたうえで高齢者を受け入れている物件の募集条件も、条件の立て方の参考になります。問題は条件にできるかではなく、「法令の制限内」をどう守るかです。
特約は標準契約書のどこに書くのか
国土交通省の賃貸住宅標準契約書(平成30年3月版)では、個別の取り決めは第19条(特約条項)の欄に書きます。作成にあたっての注意点は、項目ごとに記載事項の上に貸主と借主が押印し、最後に確認的に記名押印するよう求め、例として「保険の加入がある場合、その内容」や死後事務委任に関連する条項を挙げています[3]。
見守りは例示にありませんが、同じ欄で扱う性質の取り決めです。口頭の約束や備考欄で済ませず、条項として独立させるのが出発点です。
無効にならない書き方——消費者契約法第10条の物差し
借主が個人で、貸主が事業として貸していれば、その賃貸借は消費者契約に当たります[4]。第10条は、消費者の義務を加重する条項のうち、信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものを無効とします[4]。
物差しになるのが、居住用賃貸の更新料条項を判断した最高裁平成23年7月15日判決です。契約書に一義的かつ具体的に記載され明確な合意があれば、高額に過ぎるなどの特段の事情がない限り第10条には当たらないとしました[5]。見守りに当てはめれば、何のサービスを、誰が契約し、異変時に誰へ連絡が入り、費用を誰が負担するかを書き切ることです。「見守りサービスに加入すること」の一文だけでは、何を約束したのかが定まりません。
特約が有効かは、条項の書き方・説明の経緯・負担の程度で個別に判断されます。条項を作る段階で、弁護士や契約実務に詳しい専門家に確認してください。
見守りの費用を入居者の負担にしてよいか
ここでは金額ではなく、書く場所の話をします。標準契約書の頭書(3)は、賃料・共益費・敷金・その他一時金・附属施設使用料以外の金銭を授受する場合、「その他」欄に内容と金額を記入するよう求めています[3]。仲介する宅地建物取引業者は、借賃以外に授受される金銭の額と目的を、契約成立までに書面で説明しなければなりません(宅地建物取引業法第35条第1項第7号)[6]。
参考になるのが居住サポート住宅の認定基準で、国土交通省のリーフレットは安否確認などの居住サポートについて「対価が不当に高額でないこと」を求めています[7]。対価を設けること自体ではなく、額の相当性で線を引いているということです。
入居中の人に、更新時から加入を求められるか
すでに住んでいる入居者は事情が違います。契約内容の変更は合意によるので、貸主の側から一方的に加入を義務づけることはできません。「加入しないなら更新しない」とする場合も、更新拒絶には借地借家法第28条の正当事由が要り、第30条は借主に不利な特約を無効としています[8]。未加入が正当事由の考慮要素に挙がっているわけではないことは、更新拒絶と正当事由で整理したとおりです。
入居中の人に対しては、条件ではなく案内と同意が現実的な経路になります。
入居者が途中で解約したら、契約を解除できるか
特約で約束した加入を、入居者が途中でやめた場合はどうか。標準契約書第10条第2項は、「その他本契約書に規定する乙の義務」の違反による解除にも、相当の期間を定めた催告と、その違反により契約の継続が困難であると認められるに至ったことを求めています[3]。見守りの解約だけで、ただちに解除へ進めるわけではありません。
しかも本人契約型の見守りは、止まっても貸主に知らせが来ないことがあります。見守りサービスを導入するとき最初に決めることで触れたとおり、継続を確かめる方法まで条項に書いておく必要があります。
条件にするより、物件の側に付けるという選択
入居者に契約させる代わりに、貸主・管理会社が物件の側に見守りを付ける方法もあります。入居者の解約で止まることがなく、特約で課す義務も小さくできます。ただしデータの利用には本人の同意が要る点は変わりません。
自治体の緊急通報システムは対象要件が自治体ごとに異なり、入居の前提にはしにくい仕組みです。居住サポート住宅は1日1回以上の安否確認と月1回以上の見守りを認定基準に組み込んでいますが、総認定戸数は363戸にとどまります[7]。入居者に契約を求めず、物件単位で生活の変化を拾う見守りは、条件化に代わる現実的な選択肢です。
まとめ:条件にするなら、書面に残す4つ
- 何のサービスで、誰が契約者か——本人契約か、物件付帯か
- 異変時に誰へ連絡が入り、誰が駆けつけるか
- 費用を誰が負担するか——頭書(3)の「その他」欄と重要事項説明で明示する
- 継続をどう確かめるか——途中解約で即解除にはならない前提で
条件にできるかどうかより、書き切れているかどうかで結果が分かれます。