賃貸住宅の「ごみ屋敷」は孤立のサイン|大家・管理会社が気づける兆候と初動
「部屋の中がごみで埋まっている」「共用廊下やベランダに物が積み上がっている」——賃貸住宅の管理をしていると、まれにこうした場面に出会います。国の調査を読むと、この状態は片づけの怠慢というより、居住者が支援を必要としているサインである場合が多いことが分かります。本記事では環境省と総務省行政評価局の調査から実態を確認し、大家・管理会社がとるべき初動を整理します。
全国で6,054件|「ごみ屋敷」に直接対応する法律はない
環境省が全国1,741市区町村を対象に行った令和6年度の調査(回答率100%)によると、令和2年度から令和6年度の直近5年度でごみ屋敷事案を認知した市区町村は672(38.6%)、認知件数は合計6,054件でした。うち改善したのは2,437件(40.3%)で、3,617件が現在も継続している事案です。
もう一つ押さえておきたいのが法制度です。総務省行政評価局は報告書で「『ごみ屋敷』事案に直接対応する法律や国の制度はない」と明記しています。条例を制定している市区町村も90(5.2%)にとどまり、9割超は「制定予定なし」でした。行政に連絡すれば強制的な解決が自動的に始まる、という仕組みは存在しません。
環境省の調査では、市区町村がごみ屋敷を知るきっかけとして、民生委員や地域包括支援センターと並んで「不動産所有者、管理会社等からの相談」が挙げられています。管理側からの情報提供は、行政にとって実際の入口の一つです。
賃貸住宅でも起きている|集合住宅が約3割、単身高齢者が最多
総務省行政評価局は、人口10万人以上の30市区を対象に、平成29年4月から令和4年10月までの5年半で少なくとも1,970事案を確認し、うち181事例を実地調査しています。家屋の形態は戸建住宅が約7割(126事例)、集合住宅が約3割(55事例)で、集合住宅はほとんどが賃貸でした。
居住者の世帯構成は単身世帯が約6割(107事例)で、その単身世帯のうち65歳以上が半数以上(58事例)と最も多い層でした。堆積物によって火災発生のおそれ、悪臭、害虫等のいずれかの支障が生じている事例は約8割(149事例)にのぼります。
火災のおそれは、本人だけでなく他の入居者や近隣に及ぶリスクです。「本人の部屋の中のことだから」と様子見を続けることが、建物全体の安全に関わる問題になり得ます。
背景にあるのは健康・経済の課題|約7割が支援を要する状態
同じ181事例で、居住者の状況が調べられています。世帯のいずれかが健康面の課題(介護、精神疾患・障害、身体疾患・障害、認知症など。疑いを含む)を抱える事例は約7割(124事例)、経済面の課題を抱える世帯は約4割(74事例)で、生活保護を受けているか必要と判断された世帯は全体の3割を超えていました。健康面または経済面の課題を抱える事例は約7割(131事例)です。
報告書は「『ごみ屋敷』の状態であることは、居住者が支援を必要としている状況にあることを把握する端緒の一つと捉えることもできる」としています。認知症が背景にある場合の進め方は入居者に認知症が疑われたときの対応フローの記事もあわせてご覧ください。
対応の成果にも差が出ています。複数部署が関わった場合の解消率は36.4%で、単独部署の26.1%を上回りました。環境担当と福祉担当の両方が関わった場合は38.2%と最も高くなっています。ごみの撤去と本人の支援は、どちらか一方だけでは解決しにくいということです。
気づくのが遅れる理由|屋内だけの堆積は外から見えない
181事例の把握の端緒は、周辺住民等からの情報提供が83事例、市区等による把握が85事例で、居住者や家族など当事者からの相談は1割未満(13事例)でした。堆積範囲が広いほど住民からの通報で見つかる一方、家屋内のみに堆積している場合は外観から把握できず、行政職員が別の用件で室内に入って初めて分かるケースが多いと報告されています。通報で把握した時点ではすでに深刻化していることが多い、という声も挙がっています。
賃貸住宅では、この「外から見えない」時間帯にこそ管理側の接点があります。家賃の入金遅れ、郵便物の滞留、共用部への物の置き始め、更新手続きの連絡がつかない——こうした小さな変化は、室内が見えなくても拾える兆候です。
大家・管理会社がとる初動4ステップ
① 記録する。いつ・どこに・どの程度の堆積があるか、臭気や害虫の有無、共用部や避難経路への影響を写真と日付で残します。後の相談・協議の土台になります。
② 本人に接触する。未解消119事例では、介入について理解を得ることが難しいとされた事例が約8割、本人が解消を望んでいないとされた事例が約6割でした。撤去指示から入ると関係が切れます。まずは体調や困りごとを尋ね、ごみ出しが負担になっていないかを確認します。環境省が手引きを公開している高齢者のごみ出し支援制度の対象になる場合もあります。
③ 行政と福祉の両方につなぐ。市区町村の廃棄物・環境担当だけでなく、高齢者であれば地域包括支援センターにも相談します。181事例では地域包括支援センターが69事例(38.1%)で対応していました。地域の状況を把握する民生委員との連携も有効です。
④ 気づく仕組みを常設する。訪問や通報を待つ運用では、把握はどうしても遅れます。日々の生活の変化を自動で拾えるスマートメーターによる見守りのような仕組みを入れておくと、室内に入らずに異変の兆しを受け取れます。万一発見が遅れた場合の特殊清掃や原状回復の負担も、備えの有無で受け止め方が変わります。
まとめ:片づけの問題ではなく、気づきの問題
ごみ屋敷事案に直接対応する法律はなく、条例のある自治体も5.2%。一方で居住者の約7割は健康面・経済面の課題を抱えていました。強制的に片づける手段を探すより、早く気づいて、行政と福祉の双方につなぐ方が現実的で、解消率も高いことがデータに表れています。
大家・管理会社にできるのは、変化に早く気づける状態をつくっておくことです。日々の見守りと、万一の際の費用を受け止める保険(原状回復を最大100万円・空室や家賃損失を最大200万円まで補償)を組み合わせておけば、対応の選択肢は広がります。備えの状況は60秒のリスク診断でも確認できます。