2026.07.23

入居者に認知症が疑われたら?管理会社・大家がとる対応フローと相談先

約2,400文字読了目安 5分

「最近、家賃の払い忘れが続く」「同じ苦情の電話が何度もかかってくる」——単身の高齢入居者にこうした変化が見られると、大家や管理会社は認知症を疑いつつも、どう動けばよいか迷いがちです。医療的な判断は専門家の領域ですが、日々の管理業務のなかで最初に異変に気づけるのは、実は現場に近い大家・管理会社です。本記事では、入居中に認知症が疑われたときに取るべき対応の流れと、頼るべき相談先を順に整理します。

入居者の認知症は「特別なこと」ではない

厚生労働省が公表した将来推計によると、認知症の高齢者数は2025年(令和7年)時点で約471.6万人、高齢者に占める割合(有病率)は12.9%と見込まれています。おおむね高齢者の8人に1人という水準で、決して珍しいことではありません。

この傾向は制度の利用状況にも表れています。最高裁判所によると、2024年(令和6年)の成年後見関係事件で、後見等の開始原因として最も多いのが認知症で、認容された事件全体の約61.9%を占めています。高齢入居者を受け入れる以上、認知症が疑われる場面は誰にでも起こりうる、という前提で備えておくことが大切です。

まず「早めのサイン」に気づく

認知症への対応は、早く気づけるほど選択肢が広がります。賃貸管理の現場で表れやすいサインには、家賃の払い忘れが増える、ゴミ出しの曜日やルールが守れなくなる、同じ問い合わせや苦情を繰り返す、火の消し忘れや水漏れが起きる、近隣との些細なトラブルが増える、といったものがあります。

難しいのは、単身高齢者の場合こうした変化に周囲が気づきにくい点です。家族が近くにおらず、日常的に様子を見る人がいなければ、異変が表面化するのは大きなトラブルが起きてからになりがちです。だからこそ、日々の生活リズムを自動で把握できる仕組みが役立ちます。電力データを使った見守りのように、いつもと違う生活パターンの変化に早めに気づける環境を整えておくと、初動を早められます。

最初の相談先は地域包括支援センター

認知症が疑われても、大家や管理会社が病名を判断したり、無理に受診をすすめたりする必要はありません。最初につなぐべき窓口は、各市区町村が設置する地域包括支援センターです。おおむね中学校区ごとに置かれ、高齢者やその支援に関わる人が無料で相談できる、地域の高齢者福祉の総合窓口です。

地域包括支援センターに相談すると、保健師・社会福祉士・ケアマネジャーなどの専門職が、本人の状況に応じて介護保険サービスや医療機関、行政の支援制度につないでくれます。民生委員や自治体の福祉部門と連携して見守り体制をつくることもできます。管理会社は「異変に気づいたら専門機関につなぐ」役割に徹し、判断や支援は専門職に委ねるのが基本の型です。

連絡先は「(市区町村名)地域包括支援センター」で検索するか、自治体の高齢福祉窓口に問い合わせれば案内してもらえます。本人の同意が得られない場合でも、緊急性がある事案は自治体に相談できます。

判断能力が不十分なら成年後見制度を検討

認知症が進み、契約更新や解約、家賃の支払いといった法律行為・金銭管理に支障が出てきた場合は、成年後見制度の利用が選択肢になります。家庭裁判所が選任した後見人等が、本人に代わって財産管理や契約手続きを行う制度です。最高裁によると、2024年末時点の成年後見制度の利用者数は約25万3,941人にのぼります。

身寄りがない、あるいは親族が申立てに動けない単身高齢者については、本人の住む市区町村長が代わりに家庭裁判所へ申立てを行う「市区町村長申立て」という仕組みがあります。2024年の申立件数41,841件のうち、市区町村長による申立ては9,980件で全体の約23.9%を占め、申立人の区分としては最も多くなりました。単身高齢者の増加を背景に、この割合は年々高まっています。

後見人等が選任されるまでには一定の期間がかかり、費用も生じます。契約や原状回復をめぐって切迫した状況になる前に、地域包括支援センターや居住支援法人と早めに連携しておくことが、結果的にトラブルの深刻化を防ぎます。

契約・原状回復・孤独死リスクへの備え

認知症への対応と並行して、大家が現実に向き合うのが「万一のとき、居室や家賃はどうなるか」という不安です。判断能力の低下は、退去交渉や原状回復の合意を難しくし、単身であれば発見の遅れや孤独死のリスクも高まります。

これらは、見守りと保険で役割を分けて備えると整理しやすくなります。日々の安否は見守りで確認し、居室内で万一のことが起きた場合の原状回復費用は最大100万円、空室・家賃損失は最大200万円まで補償する孤独死保険で受け止める、という考え方です。高齢者の受け入れを空室対策として捉えるのであれば、こうした備えをあらかじめセットで用意しておくことが、認知症が疑われる局面でも慌てず対応するための土台になります。

まとめ:抱え込まず、専門機関につなぐ

入居者に認知症が疑われたとき、大家・管理会社に求められるのは診断でも治療でもなく、「早く気づき、正しい窓口につなぐ」ことです。日々の変化に気づく見守りの仕組みを整え、異変があれば地域包括支援センターへ相談し、判断能力の低下が進めば成年後見制度や市区町村長申立てを検討する——この流れを知っておくだけで、初動は大きく変わります。そのうえで見守りと保険による備えを重ねれば、認知症が疑われる高齢者の入居も、過度に恐れずに向き合えるようになります。自分の物件の備えがどこまでできているかは、60秒のリスク診断でも確認できます。

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